蒸気圧と沸点の基礎|飽和蒸気圧と外圧の関係を理解する

蒸気圧と沸点とは?飽和蒸気圧の仕組みと乙4の学習で押さえたいポイント

水は100℃になると沸騰する、と聞いたことがあるでしょう。

しかし、洗濯物は100℃にならなくても乾きます。また、山の上では、水が100℃より低い温度で沸騰します。

なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか。

その理由を理解するために重要なのが、蒸気圧と沸点です。

危険物取扱者乙種第4類(乙4)では、ガソリンや灯油などの引火性液体を扱います。液体から蒸気が発生する仕組みを理解することは、危険物の性質を学ぶ基礎になります。

この記事では、まず純粋な液体を使った気液平衡のモデルで飽和蒸気圧を学び、次に沸点や引火性液体との関係を考えます。

1. 蒸発と沸騰の違い

液体の表面から粒子が飛び出し、気体になる現象を蒸発といいます。

蒸発は、液体が沸点に達していなくても起こります。

例えば、水たまりが自然に乾いたり、洗濯物が乾いたりするのは、水が常温でも蒸発しているためです。

一方、液体の内部でも蒸気の気泡が発生し、成長する現象を沸騰といいます。

外圧とは、液体の表面に周囲からかかる圧力です。開いた容器では、通常、その場所の大気圧が外圧になります。沸騰する温度はこの外圧によって変わります。

比較項目 蒸発 沸騰
起こる場所 液体の表面 液体の内部でも起こる
温度 沸点以下でも起こる 外圧に対応した沸点で起こる
身近な例 洗濯物が乾く やかんの水が沸く

ここがポイント:蒸発は沸点以下でも液面で起こる。沸騰は液体の内部で気泡が成長する現象。

2. 蒸発と凝縮のつり合い

純粋な液体を密閉容器に入れ、その液体と蒸気だけが存在する場合を考えましょう。温度は一定で、液体は十分に残っているものとします。

液体の表面からは、粒子が蒸発して気体になります。

一方、蒸気となった粒子の一部は液体に戻ります。この現象を凝縮といいます。

時間が経過すると、単位時間あたりに蒸発する粒子数と、凝縮する粒子数が等しくなります。この状態を気液平衡といいます。

気液平衡では、蒸発も凝縮も止まっていません。両方が同じ速さで続くため、見かけ上は液体と蒸気の量が変化しなくなります。

このように、変化が続いているにもかかわらず全体としてつり合っている状態を動的平衡といいます。

密閉容器内で蒸発と凝縮が同時に続き、つり合う状態を示す図
図1:蒸発と凝縮の動的平衡

ここがポイント:気液平衡では、単位時間あたりの蒸発数と凝縮数が等しい。

3. 蒸気圧と飽和蒸気圧

液体から蒸発した気体を蒸気といいます。

蒸気も気体なので、容器の壁などに圧力を及ぼします。この蒸気が及ぼす圧力を蒸気圧といいます。

純粋な液体とその蒸気が、一定温度の密閉容器内で気液平衡にあるときの蒸気の圧力が、飽和蒸気圧です。以降、液体の性質として単に「蒸気圧」と述べるときは、この飽和蒸気圧を指すものとします。

蒸気圧と飽和蒸気圧は同じ?

平衡に達する前は、必ずしも同じではありません。

例えば、密閉容器に液体を入れた直後は、蒸気がまだ十分に存在していない場合があります。このとき、蒸気の圧力は飽和蒸気圧より低い状態です。

その後、蒸発によって蒸気が増え、気液平衡に達すると、蒸気の圧力はその温度での飽和蒸気圧になります。

飽和蒸気圧は何によって決まる?

純粋な液体の飽和蒸気圧は、主に次の2つによって決まります。

  • 物質の種類
  • 温度

例えば、同じ温度でも、水とエタノールでは飽和蒸気圧が異なります。

容器を大きくすると飽和蒸気圧は変わる?

温度が一定で、液体とその蒸気が共存している場合、飽和蒸気圧は容器の体積によって変わりません。

容器を大きくすると、一時的に蒸気の圧力は低下します。しかし、液体がさらに蒸発することで、再び同じ温度に対応する飽和蒸気圧になります。

ただし、液体がすべて蒸発した場合には、この説明は当てはまりません。

前の記事「気体と圧力の基礎」で学んだ法則との違い

前の記事「気体と圧力の基礎」では、一定量の気体について、圧力・体積・温度の関係を学びました。

一方、液体と蒸気が共存している場合は、蒸発や凝縮によって気体の量が変化します。そのため、一定量の気体を前提とした法則を、そのまま飽和蒸気圧に当てはめることはできません。

ここがポイント:一定温度で液体と蒸気が共存しているとき、飽和蒸気圧は物質の種類と温度によって決まる。

4. 温度と飽和蒸気圧の関係

一般に、同じ純粋な液体では、温度が高くなるほど飽和蒸気圧は大きくなります。

温度が高くなると液体から蒸発する粒子が増えますが、気液平衡では凝縮も単位時間あたり同じ数だけ起こっています。高い温度ほど、蒸気がより多く存在する状態でつり合い、飽和蒸気圧が大きくなります。

20・40・60℃の模式図で、温度が上がるほど飽和蒸気圧が増大することを示す図
図2:温度と飽和蒸気圧の関係

この図は、同じ純粋な液体を同じ容積の密閉容器に入れ、温度を変えた場合の気液平衡を比較する模式図です。20℃・40℃・60℃は温度の例であり、粒子や矢印の本数は実測値を表しません。

図で比べると、温度が高いほど飽和蒸気圧が大きくなることが分かります。ただし、飽和蒸気圧は温度に比例して一定の割合で増えるわけではなく、一般に温度が上がるほど急に大きくなります。

この温度と飽和蒸気圧の関係を曲線で表したものを、蒸気圧曲線といいます。ここでは数値や曲線の読み取りよりも、変化する向きを理解しましょう。

ここがポイント:同じ液体では、温度が高いほど飽和蒸気圧は大きくなる。増え方は比例関係ではない。

5. 沸点と外圧の関係

液体を加熱すると、飽和蒸気圧は大きくなります。

純粋な液体では、飽和蒸気圧が液面にかかる外圧と等しくなる温度が、その外圧での沸点です。

沸点に達すると、液体の内部で蒸気の気泡が生じ、成長できるようになります。これが沸騰です。

例えば、水は標準大気圧(101.325 kPa、1気圧)のもとで、およそ100℃で沸騰します。ただし、水の沸点は常に100℃というわけではありません。

外圧が低い場合

山の上では、平地よりも大気圧が低くなります。すると、飽和蒸気圧が外圧に達する温度も低くなるため、水は100℃より低い温度で沸騰します。

外圧が高い場合

圧力鍋の内部では、通常の大気圧より高い圧力がかかります。そのため、水が沸騰するには、より高い温度が必要になります。

外圧の変化 沸点の変化
外圧が低くなる 沸点が低くなる
外圧が高くなる 沸点が高くなる
水の沸点を1気圧の約100℃と外圧50キロパスカルの約81℃で比較する模式図
図3:外圧と沸点の関係

画像は水の場合の比較例です。外圧50 kPaなら、水の沸点は約81℃になります(NIST Chemistry WebBookに掲載された水のAntoine式の適用範囲内での計算値)。「約100℃」「約81℃」はいずれも水についての近似値であり、すべての液体に共通する温度ではありません。

ここがポイント:沸点は飽和蒸気圧が外圧と等しくなる温度。外圧が低いほど沸点は低くなる。

6. 蒸気圧と危険物の関係

消防法別表第一で、第4類危険物は「引火性液体」に分類されています。

ガソリンや灯油などの液体が燃焼する際には、液体から発生する可燃性蒸気が重要な役割を果たします。

一般に、同じ温度で飽和蒸気圧が高い液体ほど、蒸気になりやすい性質があります。このような性質を揮発性といいます。

揮発性の高い液体を取り扱う場合は、可燃性蒸気の発生や滞留に注意が必要です。

ただし、飽和蒸気圧が高いことと、引火しやすいことは同じ意味ではありません。引火の危険性には、蒸気と空気の混合状態、燃焼範囲、引火点、点火源なども関係します。引火点も、液体から可燃性蒸気が生じることと関係する性質です。

例えば、可燃性蒸気が存在していても、蒸気の濃度が燃焼範囲から外れていれば、その混合気中を火炎は通常伝わりません。

なお、ここまでの気液平衡と飽和蒸気圧は、純粋な液体を例に説明しました。ガソリンや灯油は複数の成分を含む混合物なので、同じ単一成分の模式図を、そのまま個々の製品の数値として扱うことはできません。

引火点・燃焼範囲・点火源の詳しい関係は、後続の記事で学びます。

ここがポイント:飽和蒸気圧は揮発性を理解する手がかり。引火危険性は蒸気濃度・燃焼範囲・引火点・点火源と合わせて考える。

7. 乙4の学習で押さえたいポイント

項目 覚える内容
蒸発 沸点以下でも液面で起こる
凝縮 蒸気が液体に戻る
気液平衡 単位時間あたりの蒸発数と凝縮数が等しい
飽和蒸気圧 一定温度で液体と蒸気が平衡にあるときの蒸気の圧力
温度と飽和蒸気圧 同じ液体では温度が高いほど大きくなる
沸点 飽和蒸気圧が外圧と等しくなる温度
外圧と沸点 外圧が低いほど沸点も低い

特に、次の3つは混同しないようにしましょう。

① 蒸発は沸点以下でも起こる。

② 気液平衡でも蒸発と凝縮は続いている。

③ 沸点は外圧によって変化する。

8. 確認問題

第1問

液体の蒸発について、正しいものはどれか。

  1. 蒸発は沸点に達したときだけ起こる。
  2. 蒸発は液体の表面で起こる。
  3. 蒸発では、液体の内部で気泡が生じて成長する。
  4. 密閉容器では、蒸発と凝縮のどちらも起こらない。
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答え:2

正解は2。蒸発は沸点以下でも液体の表面で起こります。1は沸点以下での蒸発を否定しているため誤り。3は蒸発ではなく沸騰の特徴です。4も誤りで、密閉容器内では蒸発と凝縮が続き、気液平衡に達することがあります。→「1. 蒸発と沸騰の違い」「2. 蒸発と凝縮のつり合い」を復習しましょう。

第2問

一定温度の密閉容器で、純粋な液体とその蒸気が気液平衡にあるとき、正しいものはどれか。

  1. 蒸発も凝縮も完全に停止している。
  2. 蒸発する粒子だけが増え続ける。
  3. 凝縮が蒸発より速く、液体の量が増え続ける。
  4. 単位時間あたりに蒸発する粒子数と凝縮する粒子数が等しい。
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答え:4

正解は4。気液平衡は静止ではなく、単位時間あたりの蒸発数と凝縮数が等しい動的平衡です。1のように両方が停止するわけではありません。2と3のように一方だけが増え続ける状態でもありません。→「2. 蒸発と凝縮のつり合い」を復習しましょう。

第3問

純粋な液体の飽和蒸気圧について、正しいものはどれか。

  1. 一般に、温度が高くなるほど大きくなる。
  2. 温度が高くなるほど小さくなる。
  3. 同じ温度なら、物質の種類によらず等しい。
  4. 一定温度で気液平衡に達した後も、時間とともに増加し続ける。
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答え:1

正解は1。同じ液体では温度が高くなるほど飽和蒸気圧は大きくなります。2は変化の向きが逆。3は物質ごとの差を無視しています。4は平衡状態では蒸気圧が一定になることと矛盾します。→「3. 蒸気圧と飽和蒸気圧」「4. 温度と飽和蒸気圧の関係」を復習しましょう。

第4問

一定温度の密閉容器内で、純粋な液体とその蒸気が気液平衡にある。容器の体積を2倍にしても液体は残るものとする。再び気液平衡に達したときの飽和蒸気圧はどうなるか。

  1. 元の値の2倍になる。
  2. 元の値の半分になる。
  3. 元の値と同じになる。
  4. 蒸発が続くため、一定の値にならない。
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答え:3

正解は3。温度が一定で液体が残っていれば、平衡に達したときの飽和蒸気圧は体積によらず同じです。体積を2倍にした直後は蒸気圧が下がっても、液体の一部が蒸発して元の平衡値に戻ります。1は体積と圧力が同じ向きに変わると考えた誤り。2は一定量の気体を前提にした計算をそのまま当てはめた誤りです。4も再び平衡に達する条件を見落としています。→「3. 蒸気圧と飽和蒸気圧」を復習しましょう。

第5問

純粋な液体の沸点と外圧の関係について、正しいものはどれか。

  1. 外圧が低くなるほど、沸点は高くなる。
  2. 飽和蒸気圧が外圧と等しくなる温度が沸点であり、外圧が低いほど沸点も低くなる。
  3. 液体が蒸発し始める温度が沸点なので、外圧には左右されない。
  4. 水が標準大気圧で約100℃で沸騰することから、外圧が変わっても水の沸点は変わらない。
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答え:2

正解は2。沸点は飽和蒸気圧と外圧が等しくなる温度です。1は外圧と沸点の関係が逆。3は蒸発と沸騰を混同しています。4は水の約100℃が標準大気圧の場合の値であることを見落としています。→「5. 沸点と外圧の関係」を復習しましょう。

第6問

飽和蒸気圧と引火性液体の取扱いについて、最も適切なものはどれか。

  1. 飽和蒸気圧は、液体が引火したときの炎の温度を示す。
  2. 飽和蒸気圧だけが分かれば、蒸気濃度や燃焼範囲を考えなくても引火危険性を判断できる。
  3. 飽和蒸気圧が低い液体は、可燃性蒸気を発生させない。
  4. 飽和蒸気圧は、液体から蒸気が発生しやすいかを考えるための指標になる。
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答え:4

正解は4。飽和蒸気圧は、同じ温度で蒸気になりやすいかを考える指標です。1のように炎の温度を示す数値ではありません。2は蒸気濃度・燃焼範囲・点火源を無視しており、3も低い飽和蒸気圧を「蒸気がまったく出ない」と誤解しています。→「6. 蒸気圧と危険物の関係」を復習しましょう。

9. まとめ

蒸気圧と沸点について、重要なポイントを整理しましょう。

  1. 蒸発は沸点以下でも起こる。
  2. 気液平衡では、単位時間あたりに蒸発する粒子数と凝縮する粒子数が等しい。
  3. 純粋な液体の飽和蒸気圧は、物質の種類と温度によって決まる(液体と蒸気が共存するとき)。
  4. 飽和蒸気圧が外圧と等しくなる温度が沸点である。
  5. 外圧が低くなると沸点は低くなる。

蒸気圧と沸点を理解すると、液体から蒸気が発生する仕組みや、温度・圧力によって沸騰する条件が変わる理由が分かります。

この知識は、引火点や可燃性蒸気の危険性を理解するための基礎になります。

次に学ぶ

続いて「燃焼とは?燃焼の3要素」「引火点・発火点・燃焼範囲」の記事で、蒸気と点火源の関係を学びましょう。

参考・出典(主要な確認先)

参考資料の確認基準日:2026年10月16日。数値は記載した条件での参考値です。